10月3日(晴)

およそ一週間ぶりに会った、カノジョ氏を乗せてMockyのライブに向けて熊本へと向かう。

 

鳥栖ジャンクションを抜け、熊本方面へ向ったところで大渋滞に巻き込まれる。ツイッターで検索をすると、久留米と広川の間で車とバイク接触事故とのこと。渋滞に巻き込まれると、イライラ感よりも、動けない状況がトイレどうしようとかお腹が空いたとか、不安感に包まれて具合が悪くなるほうだ。今日は、じっとしているうちに低血糖みたいな軽い虚脱感になりつつあった。朝からバタバタ準備しているうちに朝飯を食べそこねてしまったのが原因だ。

 

30分近く経ってようやく流れたので広川サービスエリアに休憩を兼ねて入る。店の窓をよくよく見ると、見覚えのあるファンシーな絵が目についたので、ひょっとして…と思い、近くでよく見ると、やはり水森亜土本人によるものだった。どういう経緯で水森亜土が窓に書くことになったのか分からないが、Wikipediaを見ても他にやっているサービスエリアはないので貴重である。昼飯は熊本で食べたいので、お菓子でしのぐことにする。

 

広川からさほど時間もかからず、熊本に到着。熊本はインターチェンジから市内まではそこそこ距離があるのだが。

 

今宵の宿である、スーパーホテルLohas熊本天然温泉にチェックインしようにもまだ時間があり、駐車場も停めることができないとのことで、中心地に停めようとするも、なかなかお値段もよろしく、ぐるぐると回っているうちに古い立体駐車場の隣りにある安い青空駐車場に停めることができた。

 

お昼はやはり熊本の郷土料理ということで落ち着いた雰囲気の紅蘭亭 上通パビリオン店太平燕を食す。14時から貸し切りの予約が入っているというので、我々が入った時間からさほど時間もないおかげで次々と料理が運ばれてくるので、残念ながら落ち着いて食える感じではなかったが。

 

一旦、ホテルに戻り、チェックインを済ませることに。ライブ会場である早川倉庫はなんと徒歩圏内!チェックイン前に確認するために立ち寄る。築130年を越える早川倉庫の外観は歴史の趣きとリノベーションによって新しい血が入った魅力的な施設に感じられ、これは夜のライブが楽しみにならざるを得ない。

 

ホテルから熊本の繁華街までは少し距離はあるものの、歩けない距離ではない。アーケードに戻り、夜のライブまでの間、軽くコーヒーでも飲もうと思っていたら、目に飛びこんだのが単館系映画館。その名もDenkikan。熊本に行く前に本屋で立ち読みしていた『新しい九州旅行』の熊本でのページで紹介されていて、その存在が気になっていた映画館だ。ホームページによるとこれまた100年を越す歴史をもった劇場である。映画を観る時間がないものの、せっかくなのでロビーにある喫茶コーナーでコーヒーをいただくことに。この珈琲しもやま、ミニシアターなのでロビーにカフェを併設してみましたという感じではなく、豆や淹れ方にこだわっているのがメニューからひしひしと感じられる。なんせコーヒーのメニューしかないのだから。パプアニューギニア マウント ウイルヘルム クルム STDのすっきりとしたコーヒーをサイフォンでイッタラのカップで味わう。マスターによるとここではじめて8年になるという。そもそもは店主が喫茶店をやっていたものの、続けるのが困難になったのか閉めた後は、集客を当て込んでか、当時流行っていたタピオカドリンクの店もやっていたことがあったという。あまりにもミスマッチだったためか、いまのしもやまさんに代わっていったのだろう。映画を観る前にテイクアウトで入る人や、観終えた余韻をコーヒーと味わったり、コーヒーだけ飲みに来る常連客など。映画とコーヒー店というのは相性がいいように思う。その上映作品に合わせた豆を使ったスペシャルブレンドなどもこだわりのなせるユニークな企画だろうと思った。

 

大橋歩がちょうど秋冬コレクション(菊地成孔の言うところのAW)で熊本に来ているというので覗こうとするも、ちょっと腰が引けたもので止めておくことに。カノジョ氏が行きたいというので最近の『BRUTUS』のファッション特集にもとりあげられ、東京青山にも出店をしたPERMANENT MODERNへ。ヨーロッパなどから仕入れた個性的な服が並ぶセレクトショップ。オーナーの有田正博氏はセレクトショップの原型を作った人とも評される人物だという。

 

受付時間前に早川倉庫に到着。いささか早過ぎるのでホテルに戻ったりなんか出来たのが地の利である。チケットに記載されている整理番号順かと思いきや、待っている人もさほどいなかったので、なんと最前列のど真ん中に陣取ることに!

 

開場BGM代わりにDJ Shhhhhによるmixが生で聴けるのも高揚感が高まり、すでにハートランドでいい気分になってしまう。そうこうしているうち(倉庫だけに!)にお客さんも増えて来る。それもオシャレな人が多いことに驚く。「そうなんだよな。オシャレな人は文化的にも感度が良くなきゃ!」と、たいしてオシャレでもなんでもない自分が口角泡を飛ばしながら話しても、何ら説得感もないのであるが。

おそらく売り切れるだろうから、最新作『Key Change』のアナログ盤を購入。

熊本在住である坂口恭平さんも登場し、ライブ前のMockyに今回のライブのために製作されたポスターの原画をプレゼントしているところを目撃したり、RePublik:の河崎政芳さんが居たりと、開始前からすでに“出来上がっている状態”だ。尿道もすっかり出来上がってしまい、何度もトイレに往復してしまう始末。ライブ開始ギリギリに行けて良かった。最前列でトイレに立つなんてみっともないから。

 

主役であるMockyに、メンバーとして、ソロでも活躍する女性シンガーNia Andrews、フェンダーローズ、フルートを担当するJoey Dosik、5弦ヴィオラ、ヴァイオリンの波多野敦子、コンガ・ドラムの菅沼雄太という、日本のアーティストとのセッションという豪華な布陣。

音源の美しい世界観だけでなく、ダイナミックな演奏によって違う側面に思わず魅せられていく。つぎつぎと使用楽器を入れ替えていくマルチプレイヤーのMocky、生のフェンダーローズははじめて聴けたが、このとろけそうな音色がたまらなく気持ちいい。素晴らしい演奏技術を披露しながら、なによりとても楽しそうに弾いているのが伝わって来て、こちらも終始にこにこしながら圧倒されていった。立ち見である坂口恭平さんらも完全に出来上がって、何をやっても盛り上がるという心地良い空間に包まれた。最後の曲では座席だった我々も立ち上がり、オールスタンディング状態でのめり込んでいった。アンコールとして「Birds Of A Feather」をやってくれたのは最高だったなぁ。

終演後にサインや記念撮影までしてもらう。サンキューぐらいしか言えず、こういう時に英語が喋れたり、物おじせず気軽に話しかけれるような性格だったらなと思う。

Key Change [Analog]

Key Change [Analog]

 

昼の中華コースが効いたのか、終演後もお腹は特に空いていなかったのだが、せっかく熊本の夜を楽しまなくちゃ勿体ないので、太田和彦さんも賞賛をおくる瓢六へ。念のため電話予約をしておく。2時間制と告げられるも長居しないので問題なし。

 

腹ごなしにホテルから花畑町まで歩いて行く。夜の歓楽街の一角にあるビルの中に瓢六はある。踊りに行くクラブではなく、着物やドレスに身を包んだママさんがお酒を注いでくれる高級クラブに行く、赤ら顔のおじさんらを尻目に瓢六へ入店。

 

さほど広くない店内ではあるが、オーナーである姉妹とは別に板前さんなどのスタッフの数はなかなか多く、そして清潔である。先日行った京都の糸仙もそうだが、店内が油臭かったり、醤油臭かったりしないのである。ちゃんと掃除が行き届いている証なのだな。

郷土料理ということで辛子蓮根に牛すじではなく、馬肉のすじ煮込みを食べる。辛子蓮根は揚げたて。市販のものは揚げたのを冷蔵してあるから、それが当たり前だとついつい思ってしまうが、出来立ては温かいのだな。馬刺しや寿司といった少しお値段が張るものから、おでんのようなつまめるものまであるのが嬉しい。あっさりしているのにコクがあるという品の良いおでんもまた良し。おそらくかまぼこを燻製にした、“燻製”も美味しかった。気がつけば周りの客はいなくなったな、と思っていたら、きれいに入れ替わるように、次々と入店。0時近くなのに繁盛するのも頷ける、熊本の名店だった。

 

ホテルに帰り、売りのひとつである天然温泉に入る。浴槽は小さいが、夜は少し肌寒くなってきたのでとても気持ちがよいのでR。