12月12日

2度目の参加となるシアターシエマの覆面オールナイト上映イベント、シエマの桃源郷2015へ。

 

ヤフオクで落札したMiss Abrams & The Strawberry Point 4th Grade Class、マイルス・デイヴィスレニー・トリスターノが収録されたクール・ジャズの名盤『Cool & Quiet』が届く。どちらもジャケットも含めて素晴らしい。

 

夕方17時に佐世保駅を出るように、ゆったり目に準備をしていたら、連絡ミスでギリギリになり、慌てて車を飛ばし、家に下りて、まさかの駅までダッシュするはめに。どうにかタクシーを拾い事なきを得たが、あれで遅れてたら大変だった。

 

佐世保から佐賀へは鈍行列車でゆっくりと。ふだん電車移動をしないのでひさしぶりに乗ると新鮮である。佐賀に到着し、家に佐賀土産なんかを買ったり、西友でお菓子なんかを買ったりして、シエマでYさんと合流。

あとで合流する先生のために駐車場を探すが、あたりは飲み屋街に近い地域。忘年会の季節もあってか、けっこう満車状態。佐賀は駐車場が安いとはいえ、駐車場?…まぁ、邪推はやめておこう。

『d design travel』の佐賀特集号に掲載されていて、去年も行った旬菜台所 あ・うんへ。ここはおばさんが一人で切り盛りする、とても美味しいおふくろの味が味わえるとても居心地の良い空間だ。基本はおまかせになるのだが、突き出しで出てくるポテトサラダがとても美味しい。ヒラメの刺し身に、唐揚げ煮物どれも本当に美味しい。先生も無事に合流し4人で乾杯。おばさんは今年も我々が桃源郷に行くのを知っていて、夜中に小腹が空いた時に食べるように、おにぎりを持たせてくれた。こういう心遣いもまさに“おふくろ”の味である。いつかあ・うんを目的にじっくりと滞在したい。

 

開場時刻近いので、急いで向ったら今年からヴィンテージ会員が優先入場となったので、そうでない人間がすでに並んでいる状態でたじろぐも、開場となって急いで席を確保に向かう。中央のいいポジションを確保。先生は横にあるソファを確保。お客の数は去年より幾分少ないかなぐらいの印象であるが、深夜の劇場に映画好きな人々が集う光景はなんだか楽しくなってくるし、嬉しくなる。

 

22時に1本目がスタート。実写とパペットを組み合わせたチェコの愛らしい作品『クーキー』。ぜん息で体の弱い男の子がいつも一緒に寝てくれる大切な宝物のような存在がクーキーというクマの形をしたぬいぐるみ。ぜん息にはほこりがよくないというので掃除をする母親の手によって捨てられてしまう。ゴミの埋立地にやって来てしまったクーキーの間近に迫る巨大なキャタピラー。絶体絶命を思われたその時に、自分で石を持って動き出すクーキー。命からがら森へと逃げこみ、そこで村長と出会う。そこで起こる様々な出来事…。まるで絵本のようなストーリーで、日本でももっと話題になっていてもいいのになぁ、と思ういい映画だった。マペットとCGの組み合わせ、村長をはじめ森の妖精たちのちょっと気味の悪いけど、かわいらしさもあるデザインもティム・バートン的な、あるいは先日見たミナ・ペルホネンの描く絵にもどこか似た味わいも印象的。

自分もぜん息持ちで、子供の頃によく抱いていたうさぎのぬいぐるみを思い出した。まだ捨ててない筈なので、どこか物置にひっそりと眠っているんじゃないだろうか。

あと主人公の少年が吸引しているぜん息の薬がまったく同じだったので、おっ、と思わず反応したが、直後に少年はうがいをせず布団に潜り込んでしまったので、ぜん息持ちとしてはそこはおかしいだろ!と少しツッコミを入れたくなった。

 

2本目は『(秘)湯の町 夜のひとで』。冒頭の時代劇のようなシーンに呆気にとられ、しかも侍に切られた女性の着物ははだけ、なんと丸裸に。戦前にこんな時代劇があったのかと驚愕しつつ、俳優やスタッフの名前が出ても知らない名前ばかりだったが、タイトルに続いて映し出されたのがバスのシーンで、「あ、これは戦前の映画でもなんでもなく、60年代、70年代ぐらいの作品なんだな」と受け止めることができた。

久生と雀という内縁関係の夫婦と、関西弁をあやつるペテン師のような男、その名もトリ金。ブルーフィルムと呼ばれる今で言うエロ映画やエロ写真を生業にしている、まさに先日亡くなった野坂昭如の作品でもある“エロ事師たち”である。劇場で作品として上映されるピンク映画のようなものでなく、温泉旅館の客などを相手に隠れて上映したりしていたのだろうか。いろいろ語られていないこういう裏の側面というものがどうだったのか興味深い。切なくてやるせないような悲劇的な末路を遂げてしまう終り方もまたなんとも言えない余韻が残った。鈴木則文監督の『温泉みみず芸者』や『温泉スッポン芸者』といった楽しい東映のピンク映画などは観ているが、おそらくテイストが似通ってるであろう、日活ロマンポルノはまだほとんど観ていないので、こういう作品がまだまだ眠っているかと思うと、日本の当時の映画文化というのは改めてすごいなと思ってしまう。上映後に配られるリーフレットには脚本がペンネームであるものの、若松プロダクションの大和屋竺だということに、なるほどと思わせるものがあった。

 

3本目は打って変わって、フランス映画の『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』。どこか打算的であったり、抜けているところがあったりする主人公たちに起こる様々な出来事をモノローグで語っていくという表現を織り交ぜながら描いていく。青春というには幾分、歳をとっている彼らの物語は、映画のキャッチコピーを借りるならば、“ぱっとしない”大人たちの恋の季節と呼ぶに相応しい作品。しかしながら薄毛の同世代の主人公アルマンは最初、どこか抜けた感じでついつい笑いを誘っていたのだが、後半にしたがってとても男らしく、いい表情をしていることに気づかされるはずだ。フランス映画のラブ・ストーリーというと、とてもオシャレなイメージをそのまま連想することは容易いが、この『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』の登場人物は等身大に感じられたところも印象的なところだ。深夜1時から3時近くのフランス映画はかなり眠気を誘うので睡魔との格闘でもあった。

 

本日4本目、クライマックスはフィルム上映作品である。さて何が飛び出るのか、わくわくしていたら、岩礁に波がザップーンといくあの三角ロゴの東映印が出てきたとき、心のなかでガッツポーズであった!いきなりスペイシーな映像に切り替わり、ひょっとして…と思ったが、やっぱりな『宇宙からのメッセージ』である!新作の公開を間近に控えた『スター・ウォーズ』に引っ掛けたチョイスなのは言うまでもない。ちなみにタイトルは知っていたが、本作は完全な初見。『スター・ウォーズ』がアメリカで大ヒットしているのを受けて、日本公開の前に乗っかったのが、本作『宇宙からのメッセージ』や東宝の『惑星大戦争』である。そういう意味でも今週末に公開される『スター・ウォーズ /フォースの覚醒』を意識した、このチョイスは活きてくる。

真田広之志穂美悦子千葉真一JACの面々に、成田三樹夫天本英世丹波哲郎といったスクリーン映えする名優の数々にハリウッド俳優のビック・モローといったワールドワイドな作品を意識したキャスト。8人の勇者が活躍するという『南総里見八犬伝』を下敷きにしつつ、東映太秦映画村の協力もあり、衣装こそ違えど、時代劇の要素もあり、戦隊モノや特撮もお家芸である東映のスペイシーな美術に戦闘機のスピード感抜群のアクションもあり、わざとらしく何度も出てくるリアべの実をめぐる笑いがこみ上げてくるシーンもところどころにありと、和製スペース・オペラ東映のエッセンスがぎっしり詰まった、ごった煮のようなB級ではあるけれど、どこか愛おしくてたまらないそんな作品だ。大作娯楽作品ってこうだよなって童心に帰ったような気持ちにさせてくれる。フィルムの状態により、少し赤みがかっていたのもセピア色の思い出を観ているようであった。生まれる前の作品ではあるのだけれど。

 

1日で4本というと、なかなか大変ではあるが、終わってみればあっという間だったし、シエマの桃源郷という、同じ作品を一夜を通して恋人や友人、知らない人たちとも共有しているのがなんとも嬉しい気分になってくるのだ。こういうおもしろいこともっと他の劇場もやればいいのにとも思うけど、シエマがこうやってくれているのだから、支えれるよう、これからも行こうと思う。

 

帰りは先生の好意で車に乗せてもらい、1時間ちょっとで帰路に着いた。来年は自分が運転しようと思った次第である。

 

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